三越伊勢丹ニッコウトラベルの看板ツアーでもある「セレナーデ号の船旅」の販売効率化に挑戦しました。
三越伊勢丹ニッコウトラベルは、百貨店である三越伊勢丹グループが展開する旅行会社です。
国内外の高級旅行やツアーの企画・運営を行っており、お客様に上質な旅行体験を提供しています。
シグマアイは単に技術提供をするだけでは無く、目指す「あるべき姿」を実現する為に、経営目標や現場の課題に「第三者視点」で問いを立て続ける事で真の「課題」を発見し、それを解決するために必要な技術提供をしていきます。
先端技術の有用性の確認と、旅行代理店の営業戦略の効率化を目的とした、データ分析とレコメンドシステムの開発を行いました。
過去に「セレナーデ号の船旅」に参加したお客様が、参加するより前にどこに旅行をしていたか?と言う過去の旅行実績から抽出した独自指標です。これを使うことにより、まだセレナーデ号に乗船したことのないお客様についても、セレナーデ号に乗船する可能性の高さを数値で表すことができます。
行き先毎に関連性の高さを重み付けして数値を設定しており、特定のお客様の旅行履歴からその方のセレナーデポイント(数値の合計)を算出できます。
単純に傾向を分析するのではなく、直ぐに営業活動に活用できるアウトプットを得られる事の方が重要だと考え、レコメンドツールを作成しました。過去の旅行履歴のデータを利用して、さらにセレナーデ号に乗船したいと考えるのかを推定するのは従来のレコメンデーションシステムでも可能です。(欠損を埋めるということに注目するならば)
しかし欠損というものにも意味があって、「行きたいけど行けなかった」「旅行プランの存在を知らなかった」など、お客様の背景も様々です。何よりも旅行会社が用意するプランは日々更新されていきますし、場所も様々ですので、多くのお客様にとっては未開の地、欠損に相当します。
そこで欠損ではなく、あるお客様の旅行の履歴から、その人がどんな人なのかに思いを巡らせ、その結果に合わせて推薦を行うようなアルゴリズムを考えました。欠損を欠損としてとらえない、データをその人の輪郭であると考えたアプローチです。
従来のレコメンドシステムのような欠損を埋めて「どこに行くか」を推定するのではなく、履歴データから「どんな人物か」推定し、「その人物が行く可能性の高い旅先」を表示できるようにしました。
【例】
Aさんは過去に イタリア に行った事がある。
Bさんは過去に イタリア スペイン に行った事がある。
Cさんは過去に イタリア スペイン 台湾 に行った事がある。
という履歴があった場合、 Aさんに旅行プランを提案することを考えてみましょう。
営業の現場でも、B,Cさんの旅行エピソードなどを営業トークに取り入れることも可能であることから、A,B,Cさんの組み合わせで表現するように考えてみます。
Cさんはイタリア旅行のタイミングでスペインに行ったのかな。イタリアと台湾は流石に無関係だろうな…など推定できる部分もあります。その部分についてデータとして意味のある関係だけを取り出しておきます。
そうした下準備のもと、BさんとCさんとの類似点からAさんの渡航候補先の可能性を推定することができます。A,B,Cさんの旅行歴を見ると、Aさんはもしかしたら台湾やスペインに行きたいと考えている可能性がみえてきます。
以上を基にした推定スコアからアイテム同士の類似度が計算できるようになりました。行き先の類似度を0~1で表す事ができ、お客様の過去の「行き先」に類似度の高い「行き先」をレコメンドします。
「セレナーデポイント」の開発により、お客様の過去の渡航歴が分かれば、そのお客様が今後「セレナーデ号の船旅」に参加する可能性がどれくらいか?数値で表示できるようになりました。
試しに、顧客データベースからセレナーデポイントのスコアが高い上位200名をリストアップしDM送信を行ったところ、6名の申込があり、通常のDM成約率の2~3倍程度の実績となりました。
この200名はこれまでの営業プロセスの中では候補に挙がらないお客様で、まさに人の感覚では掘り起こせない潜在顧客を先端技術によって掘り起こせた象徴的な実例となりました。
最先端技術を最も速く社会に届ける
担当者から
三越伊勢丹ニッコウトラベル様(以降、敬愛を込めてMINTさんと書かせて頂きます。)は、シグマアイ最初のプロダクトでもあるNNS(ニューノーマルスケジューラー)のユーザーで、その関わり合いの中でシグマアイの技術で売上増加に繋がるような取組みは出来ないか?と相談を受けたことからプロジェクトは始まりました。
シグマアイに対する多くのお客様の期待は「量子コンピューター」という近未来の神器が今まで想像もしていなかったような価値や成果をもたらしてくれるのでは?と言うものが多く、最初の期待値は非常に大きい印象があります。
今回のケースもかなり高い期待値から始まっており、何処まで期待に応えられるか不安な部分も正直ありました。さらにシグマアイのサービスは、受託型の開発ではなく、コンサルのイメージの方が近く、お客様の課題発掘から未来ビジョンの実現までかなりの上流から関わっていきます。その為、お客様の意向(経営陣と現場の意見の違いも)と目先の課題、目指すべき未来の姿が繋がっていないケースもあり、その整理から泥臭く関わるため、場合によってはかなり鬱陶しい存在にもなり得ます。
MINTさんの場合、NNSからのお付き合いという事もあり、シグマアイの鬱陶しさを理解して頂いていたので、具体的な手法、納品物等のプロジェクト中の変更も柔軟に受け入れて頂けました。
実際にオフィスで常駐し営業プロセスを見学したり、気になる事があれば直接社員の方にヒアリングさせて頂いたりと様々な角度から情報収集をさせて頂きました。
結果として、「未来のあるべき姿の実現」と言う壮大なミッションの初手でもあった、独自技術(量子アニーリング含む)でデータ分析をして「見込み客リスト」を作成する。と言うミッションから、見込み客リストを生成できる独自アルゴリズムの開発へ変貌を遂げ、中長期的に利用、改善が可能なサステイナブルなプロジェクトとなりました。
今回の取組みでは量子アニーリング技術は使用しませんでしたが、この独自アルゴリズムは営業・マーケティング分野において様々な横展開が期待でき、量子アニーリングと組み合わせる事で、驚くような営業・マーケティング革命を起こせるのではないか?と期待していますので今後の展開にも注目して頂ければと思います。